むかし、三千年以上もむかし、人間はどんな生活をしていたのでしょうか。
けわしい山や深い森の中にわけ入り、獣や鳥を追い、木の実を拾い、野原で草を摘み、薬草を探し、川や湖で魚や貝を採り、自然と共に暮らしていました。
ところが、自然はそうした多くの恵みをもたらす一方で、災いをももたらしたのです。火山の噴火、地震、雷雨、洪水、旱魃(<かんばつ>日照りのこと)。自然は恐ろしい、畏(おそ)れるべきものでもあったのです。ですから山にも木や草にも、火にも水にも雷にも、また暗闇や太陽や月や星や雲にも、鳥や蛇にも古代の人は神が宿っていると信じるようになりました。
雨が降らなければ、雨の神様に雨を降らせて下さいとお願いしました。山に入るときは山の神様に無事に帰れますよう、山の恵みをお分けいただきますよう、祈ってから入るようになりました。今でもオーストラリアのモスマンに太古から住んでいる原住民ククヤランジ族は山に入るときは顔に土で化粧して、森の精霊に「精霊たちよ。彼(彼女)を受け入れてください。」と挨拶してから入っていきます。また、ミャンマーのポッパ山には精霊信仰の僧院があり、精霊が信じられています。
古代の人が畏れおののいた数々の自然現象も今では自然科学の発達によって解明され、このように神の力を信じるということは少なくなりました。しかし、世界や日本各地の祭りや、町や村の行事などには、自然の神に対する信仰心がまだまだ色濃く残っているのです。
漢字は、人が神を信じ、畏れおののいていた時代に生まれました。高い山々が連なっている山の形(

)から山、水の流れる形(

)から川、というように初めはすべて「ものの形を写し取る」ことから生まれたのです(象形文字)。そして、神にお願いしたりお礼を申し上げたり占ってもらったりするための大切な祝詞を入れる「はこの形」から

(さい)が生まれました。
古来、ことばには「言霊」(ことばに宿ると信じられた霊の力。発せられたことばの内容どおりの状態を実現する力があると信じられていました)が宿っていると信じられてきました。それを文字に表すということは、すなわち神のことばを記すことでもあったのです。
このように、漢字のことを知ろうと思えば、漢字が生まれた時代の人が何を考え、どんな暮らしをしていたのかを知らなければなりません。つまり漢字を学ぶということは歴史や地理、そして文化・風習などにもふれることになるのです。
そして、どのようにして漢字が生まれたかを知ることによって、漢字の体系を知ることができるのです。漢字の由来を知り、系統だてて覚えることにより、知らない字でも類推できるようになり、読みや意味が自ずからわかるようになります。
本講習では成り立ちからみて漢字を四つに系列化しましたが、同じ漢字がそれぞれ違う系列に属している場合もあります。
さあ、それでは漢字の森に入って行きましょう。